Epistra
再生医療用細胞レシピをAIで探索。熟練者と同等以上の効率を達成。
2025/2/14

再生医療用細胞レシピをAIで探索。熟練者と同等以上の効率を達成。

ビジョンケア

導入の背景

  • iPS細胞の分化誘導は1ヶ月以上を要する複雑なプロセスであり、少数の熟練者に技術が集中し、技術移転が困難だった。
  • 大規模な臨床研究の実施には、多くの人が培養技術を習得できるようスケールアップする必要があり、より多くの患者に治療を届けるための課題となっていた。

導入後の効果

  • ロボットを活用したiPS分化誘導法で、熟練者と同等レベルの効率を達成する手法を開発(国際学術誌に採択)。
  • 成果は細胞製造プロセスにも導入された。

2014年9月、高橋政代氏はiPS細胞を用いた世界初の網膜移植手術を成功させました。現在は株式会社ビジョンケアの代表取締役として、最先端の治療を多くの患者に届けるための活動を続けています。今回は、Epistra Accelerateを活用した共同研究の背景と今後の展望についてお話を伺いました。

iPS細胞の培養は難しく、限られた熟練者の知識に頼っている

— まず、共同研究を始められた背景や課題について教えてください。

私たちはiPS細胞を用いた眼疾患の治療を開発しています。臨床に適した細胞を作るためには、未分化のiPS細胞を維持・増殖させつつ、目的の細胞――今回の場合は網膜色素上皮――へと分化を誘導しなければなりません。しかし、この作業は非常に難しく、トップレベルの品質を安定的に達成できるのはごく少数の熟練者に限られています。

一方で、より大規模な臨床研究を行うためには、多くの人が細胞培養技術を習得できるようにスケールアップする必要があります。手順書は適切に整備されており、熟練者の指導のもとで実践を積むことで徐々に技術は向上していきます。しかし、細胞培養には時間がかかり(網膜色素上皮の分化には約40日を要する)、経験の蓄積に時間がかかります。さらに、熟練者が無意識に行っている微妙な技術を言語化して伝えることは困難です。

AI x ロボティクス x バイオのトップチームで再生医療のボトルネックに挑む

— そうした知識の集中が、エピストラへのアプローチにつながったのですね。

2018年から、エピストラの小澤さん、理化学研究所の高橋恒一さん、国立環境研究所の夏目徹さんから、ロボティクスとAIを組み合わせたiPS細胞培養プロジェクトの提案がありました。

夏目さんのチームが開発したロボットについては、2015年に国立環境研究所を訪問した際に初めて目にし、同一の手順を繰り返し実行できるという製造面での優位性を感じていました。ただし、実際にロボットを活用するためには、培養者の知識から分化誘導の重要なポイントを体系的に抽出する必要があります。最初に提案を聞いたときは、そうしたポイントが十分に捉えられていないように感じました。

そこで、AIとロボティクスを組み合わせて分化誘導の原理を抽出し、熟練者を超える手法を構築しようと決めました。色素を持つ網膜色素上皮細胞は、分化の品質を容易に評価できるため、優れたトレーニング材料となります。挑戦する価値は十分にありました。

ロボットが魅力的な結果を出してくれたら、素晴らしいですよね!(笑)

— 2018年当時、ロボティクスとAIを組み合わせた自律探索はまだ新しい概念でした(モバイルロボット化学者の論文は2020年発表)。またEpistra自体も設立間もなく実績も限られていました。不安はなかったのでしょうか?

もちろん不安がなかったわけではありません。しかし、期待のほうがはるかに大きかったです。

基礎研究には特定の分野での深い専門性が求められます。一方で、その基礎から新しい産業を生み出すためには、単一の専門分野だけでは不十分で、広い視野を持ちながら新たに生じる課題を創造的に解決していく必要があります。この新しい挑戦に向けて、各分野のトップ人材を集めることが私たちの条件でした。チームメンバーについて言えば、可能な限り最高レベルの人材を集められたと確信しています。

チームの歯車が噛み合ったとき、成果はこれまでの限界を超えた

— 成果は当初の期待を超えるものだったのでしょうか?

当初の目標は分化誘導法の改善でしたが、研究を進めるうちに、このアプローチは細胞製造そのものにも適用すべきだと気づきました。細胞製造は熟練者にとっても極めて負担の大きい作業です。このシステムを使うことで、ロボットによる効率的な大量生産が可能になり、安定性も向上します。

また、AIを活用した共同研究を経験したことで、多くの新しい知見が得られました。他のプロジェクトの課題もAIで解決できるのではないか、別の領域にも応用できるのではないかと考え始めるようになりました。トップレベルの人材とともにこうした最先端の体験ができたことは、非常に貴重でした。

— 驚きはありましたか?

私たちの分化誘導法は高度に洗練されており、これ以上の改善は難しいと思っていました。AI(とロボティクス)が実際にそれを上回る条件を見出したときには、本当に驚きました。

さらに、契約上の準備期間を除けば、わずか半年でこの改善を達成できたことは、AIとロボティクスの相乗効果が真に顕著であることを示しています。AIはデータから優れた条件を特定でき、ロボットは指定された操作を完璧な精度で繰り返し実行できる。この相補的な強みが見事に組み合わさりました。

この技術は生物学に革命をもたらす可能性を秘めており、再生医療への応用はその始まりに過ぎない

— 共同研究を始めた当初から、このような成果を期待されていましたか?

AI専門家、ロボティクス専門家、そして私たちの再生医療研究室を集めたことは、とてもワクワクするものでした。研究室の敬愛する培養の達人を囲み、彼らが何を観察し、何を考え、何を重視しているのかを丁寧に聞き出していく。生物学がバイオテクノロジーへと変わっていく様子を目の当たりにし、明確な技術変革の可能性を確信しました。

— 今後の展望をお聞かせください。

これらの成果は現在、再生医療の細胞製造分野に応用されています。しかし、「AI」や「AIとロボティクスの組み合わせ」がもたらす革命的な可能性は、再生医療だけにとどまらないと考えています。

この技術はこれまでにないスピードで生物学の研究開発を加速させる可能性があります。私自身もこの技術を活用して、生物学の進化を推進していきたいと思います。

共同研究成果

論文

プレスリリース

ニュース記事


株式会社ビジョンケア 代表取締役 高橋 政代 様